バゲットのクープを開かせるためのスチームに霧吹きは最適なのか?

バゲットを焼成するにはスチームが必要だということはすでにご存知だと思いますが、そのスチームを発生させるために、多くのレシピでは「霧吹き」を使用することが書かれています。しかし、スチーム発生させるために「霧吹き」を使うことは本当に最適な手段なのでしょうか?今回は、多くのレシピに書かれている霧吹きを使うことの常識を少し疑ってみたいと思います。

バゲット焼成に必要なスチームとはどのようなものか?

まず結論から申し上げると、「霧吹き」はバゲット焼成の際のスチーム発生の手段としては最適ではありません。これが私なりに試行錯誤してきた結論です。そもそも、霧吹きの霧はバゲット焼成に必要なスチームとは少し違うのです。では、バゲット焼成に必要なスチームとはどのようなものなのでしょうか?「バゲット焼成に必要なスチーム」を私なりに定義すると、1つめは「100℃以上の蒸気であること」、2つめは「オーブンキックに必要な蒸気量があること」です。霧吹きで霧を吹く場合、沸騰したお湯で霧を吹くことは少ないと思いますので、もし霧吹きの水が常温だった場合、その霧は「100℃以下の水粒」に過ぎないのです。もちろん、予熱したオーブンに霧を吹けば100℃以上の蒸気になるのですが、100℃以上の蒸気になる前に「霧の状態」である必要はないのです。

霧吹きが最適でない理由その1 オーブン窯内の温度が下がる

霧吹きが最適ではない理由その1は、「オーブン窯内の温度が下がる」ということです。霧吹きしている間、オーブンの扉を開けていることになります。特に手動の霧吹きの場合、霧を複数回吹くために、オーブンの扉を3秒くらい開けているのではないでしょうか。その分だけオーブン窯内の温度が下がってしまいます。特に常温の水で霧吹きしている場合は一気に温度が下がってしまいます。例えば、250℃の窯内に20℃の水で霧吹きをしたら、温度差は-230℃になります。オーブンの扉を3秒開けて水で霧吹きしたら、せっかくの予熱も台無しになってしまいます。

霧吹きが最適でない理由その2 スチーム量が不足する

私の経験によると、家庭用オーブンでバゲット焼成に必要なスチーム発生の水分量は80cc~100ccくらいです。なぜこの量が必要かというと、窯入れ直後から始まるオーブンキックの2~3分間にスチームが必要なのですが、家庭用オーブンは蒸気が逃げやすい構造になっているため、それだけ蒸気を発生させるだけの水分量が必要なのです。

ちなみに、この80cc~100ccの量を霧吹きしようと思うとかなり時間がかかります。つまり、窯内温度が下がるということになります。オーブンの扉を開け続けているとスチームも逃げていってしまうので、効果的ではありません。

霧吹きが最適でない理由その3 霧吹きした水分が直接パン生地にかかる

窯入れしたオーブン内に霧吹きをすると、どうしても霧吹きした水分が直接パン生地にかかってしまいます。少量であれば問題はないのですが、生地が濡れすぎるとクープが上手く開かなくなる場合があります。少し詳しくお伝えすると、オーブンキックしているパン生地の状態として、クラストになる部分はやや乾燥して固め、クープ部分の生地は湿っていて柔らかめの状態、このGAPがあることが重要になります。オーブンキックで内側から圧力がかかった際、一番柔らかくて弱い部分のクープ部分から圧力が逃げることでクープができます。しかし、霧吹きした水分が直接パンにかかることでクラスト部分の生地が濡れてダレてしまい、クープ部分と同じ柔らかさになってしまうと、オーブンキックで内側から圧力がかかっても生地全体が伸びてしまい、クープ部分から圧力が逃げづらくなってしまい、クープが上手く開かないことがあります。

バゲット焼成に必要なスチーム発生の最適な方法とは?

ここまで「霧吹き」はバゲット焼成の際のスチーム発生の手段として最適ではないということを述べてきましたが、では、バゲット焼成に必要なスチーム発生の最適な方法とは何か?ここが最も気になるポイントだと思います。ここで冒頭に述べた「バゲット焼成に必要なスチームの定義」を思い出していただければと思います。1つめは「100℃以上の蒸気であること」、2つめは「オーブンキックに必要な蒸気量があること」ということをお伝えしました。この2つの条件を満たすために、とてもシンプルな方法があるのです。それは、「沸騰したお湯をオーブン内に注ぐこと」です。家庭用オーブンでバゲットを焼成する際は、天板を中段に差してバゲット焼くかと思います。ですので、オーブンの床部分のスペースが空いているかと思います。そこに大きめのタルト皿などを用意し、一緒に予熱をしておきます。バゲット生地を窯入れする直前に、沸騰したお湯80cc~100ccを用意しておきます。バゲット生地を入れた直後、素早く沸騰したお湯をタルト皿に注ぎます。こうすることで、一気に水分が蒸発し窯内にスチームが充満します。このまま最高温度で3分間焼成すれば、きれいなクープが開いているはずです。

いかがでしたでしょうか?バゲットのスチームは100℃以上の蒸気が必要であり、その蒸気を作り出すことができれば、必ずしも「霧の状態」である必要はないこと、蒸気を最短で発生させるためには、沸騰したお湯をオーブンに注ぐことが最適であることがお分かりいただけましたでしょうか?かく言う私も、バゲットを焼き始めた頃は、レシピに書かれている通り、愚直に霧吹きで霧を吹いていました。ただし、なかなか思うようにバゲットが焼けず、試行錯誤を重ねた結果、現在の理論や方法に行き着きました。私の試行錯誤の経験が何かお役に立てれば幸いです!

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