今回はラ・トラディション・フランセーズで焼くバゲットのレシピとコツを解説していきたいと思います。ラ・トラディション・フランセーズはVIRON社が販売しているフランス産の準強力粉で、フランスではRETRODOR(レトロドール )という名前で販売されています。本場フランス・パリのバゲットコンクールで優勝する店の多くがこの粉を使用するほど定評のある一方で、蛋白量が少なく粒度も粗いため吸水力はなく、とても扱いづらいという特徴を持ち合わせています。そんな「作り手泣かせ」の粉をうまく扱うコツを解説しながらレシピをご紹介していきたいと思います。
- 1 ラ・トラディション・フランセーズで焼くバゲットのレシピ
- 2 ラ・トラディション・フランセーズをうまく扱うコツその①水は必ず硬水を使う
- 3 ラ・トラディション・フランセーズをうまく扱うコツその②粉・水はあらかじめ冷やしておく
- 4 ラ・トラディション・フランセーズをうまく扱うコツその③ミキシング後のパンチで生地を繋いでいく
- 5 ラ・トラディション・フランセーズをうまく扱うコツその④成形は打ち粉を多めに振り、素早く行う
- 6 最終発酵は室温で約30分。表面をわずかに乾燥させるのがポイント。
- 7 焼成は最初5分はスチーム多めに入れて最高温度で焼き、その後220℃に落として22分、合計27分焼成する
- 8 蜂の巣状の気泡が入ったクリーム色のクラムが特徴
- 9 ラ・トラディション・フランセーズは口に入れた瞬間の香りが素晴らしい
ラ・トラディション・フランセーズで焼くバゲットのレシピ
準強力粉(ラ・トラディション・フランセーズ)100%、硬水(コントレックス)23.8%、軟水(水道水)46.2%、塩2%、インスタントドライイースト0.025%、ユーロモルト0.8% ※家庭用オーブンでバゲット2本仕込みであれば、粉量は300g程度が目安
ラ・トラディション・フランセーズをうまく扱うコツその①水は必ず硬水を使う
この粉の最大の難点は「吸水力がなく生地がベタつき扱いづらい」ということです。「加水を抑える」という方法もあるのですが、その分、クラムの気泡が入りづらくなるというトレードオフがあるので、加水率は70%を維持しつつ、生地を締める効果として「硬水を使う」ことがポイントになります。成型時の扱いやすさにも影響してきますので必ず硬水を使いましょう。
ラ・トラディション・フランセーズをうまく扱うコツその②粉・水はあらかじめ冷やしておく
硬水を使ったとしても、捏ね上げ温度が高いと生地がベタつき扱いづらくなります。捏ね上げ温度は20℃〜23℃くらいになるように、粉・水はあらかじめ冷やしておくことをおすすめします。粉は常温保存している場合、使用する10分前に冷蔵庫に入れておく程度で大丈夫です。その場合、水は4℃〜8℃くらいまで冷やしておきます。私の体感だと捏ね上げ温度が23℃でも生地がゆるく感じます。20℃くらいになるように調整すると良いと思います。
ラ・トラディション・フランセーズをうまく扱うコツその③ミキシング後のパンチで生地を繋いでいく
3分間ミキシングをした後、軽く丸めてボウルに移します。この時も生地がベタつきますので打ち粉を多めに振って素早く行います。※家庭用オーブンでバゲット2本仕込みであれば、この時点で2つに分割しておくと成形の時に綺麗に正方形に広げることができます。
20分後に1回目のパンチを行います。この時の生地はまだベタつくので、生地を丸める際には手で直接生地を触るのではなく、カードを生地に当て回転させながら丸めていくことをおすすめします。さらに20分後に2回目のパンチを行います。ようやく生地らしくなってきますので、2回目は手で直接生地を触りながら丸めることができます。※打ち粉は多めの方が良いです。
2回目のパンチが終了したら、17℃で18時間一次発酵をします。途中のパンチは一切しません。低温長時間発酵することで、ラ・トラディション・フランセーズの旨味や甘みを最大限に引き出します。
ラ・トラディション・フランセーズをうまく扱うコツその④成形は打ち粉を多めに振り、素早く行う
一次発酵終了後の生地の膨倍率は約2倍です。生地は柔らかくベタつきやすいので、打ち粉は多めに振った方が良いです。生地温度が上がるとさらに生地がゆるくなってきますので、素早く成形作業を行いましょう。
成形はまず正方形に生地を伸ばした後、三つ折りにします。美しいバゲットを焼くためには、ここできれいに正方形にすることがポイントです。生地の厚さも1cm~1.5cm程度に均等に伸ばしていくことをおすすめします。
正方形にした後は、三つ折りにします。下の写真は三つ折りにした状態です。
三つ折りにした後、少し生地を平らに伸ばし、奥側から3cm程度手前側に折り返してつなぎ目を手で押さえて閉じていき、これを2回繰り返して生地を棒状にしていきます。(クルクルと巻いていくイメージ)2回目の巻きが終わったら、最後の3回目の巻きで生地表面を張り、とじ目をしっかり閉じます。
その後生地を転がしながら太さを均一にしていき、約40cmくらいの長さになるまで軽く伸ばしていきましょう。※本当に軽くで大丈夫です。その後のキャンバス布に移す時にも生地が伸びてしまいます。成形が終わったらキャンバス布に生地をのせ、ひだ取りをして左右から生地を支えましょう。キャンバス布に生地が張り付いてしまうのを予防するためにも、キャンバス布に打ち粉を多めに振りましょう。
最終発酵は室温で約30分。表面をわずかに乾燥させるのがポイント。
最終発酵は室温で約30分とります。生地表面をわずかに乾燥させることによってクープが入りやすくなります。夏場などで室温が高い場合は、最終発酵の時間を25分くらいにするか、最後の5分間は冷蔵庫に入れて生地を冷やすなど調整を行うと良いです。その間、オーブンを最高温度で予熱しておきましょう。私の場合、最高温度での予熱が終わったら、さらに下火を強化するためにストーンプレートを別途加熱を行っています。蜂の巣状のクラムに仕上げるためには、遠赤外線効果の高いストーンプレート使って生地に一気に火を入れるのがポイントです。※くれぐれも自己責任で安全第一でお願いします。
焼成は最初5分はスチーム多めに入れて最高温度で焼き、その後220℃に落として22分、合計27分焼成する
最終発酵が終わったら、生地は取り板(バゲットと同じ長さの薄い板)を使って取り出し、スリップピールに移します。切れ味の良いクープナイフでクープを4本~5本いれて、素早く窯入れを行い、窯入れ後は多めのスチームを入れます。※オーブンを開けている時間を最小限にするためにも、霧吹きではなくオーブン床に熱湯を70ccくらい入れてスチーム発生させることをおすすめします。
焼成は最初5分はスチーム多めに入れて最高温度で焼き、その後220℃に落として22分、合計27分焼成します。焼きムラを防ぐために、途中2回程度生地の向きを変えましょう。
蜂の巣状の気泡が入ったクリーム色のクラムが特徴
ラ・トラディション・フランセーズは、生地がゆるく扱いづらいですが、その分蜂の巣状の気泡が入りやすく、粒度の粗い粉によってクラムが黄味がかったクリーム色になるのが特徴です。
ラ・トラディション・フランセーズは口に入れた瞬間の香りが素晴らしい
ラ・トラディション・フランセーズの味の特徴を一言で言うと、「口に入れた瞬間の香りが最高に素晴らしい」と個人的には感じました。バゲットを口に入れた瞬間「あっ、香りが違う」と思わせる粉は他にはないのではないでしょうか?そして噛みしめるほどに甘みを感じます。やはり値段が高いだけありますね。
ラ・トラディション・フランセーズは、その香りや味などの「機能的価値」はもちろんのこと、本場フランス・パリのブーランジェ達が愛用している粉を使用すると言う「情緒的価値(感情的価値)」も高い、特別な粉だとつくづく感じました。
とはいえなかなか普段使いするにはお値段的に高いので、例えば、大切な人に贈り物としてパンを作って贈る時などは、このラ・トラディション・フランセーズは最適なのではと思います。いつも焼くパンよりもちょっと贅沢に、香り高く、小麦の甘みを感じられるパンを作りたいときに、ラ・トラディション・フランセーズを使ってみてはいかがでしょうか。
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