パン作りを本格的に学んでいくと大体の人が「低温長時間発酵」によるパン作りの方法があることに気づきます。前日の夜に生地を仕込んで冷蔵庫などで一晩寝かせ、翌日の朝に焼成することを「オーバーナイト製法」と呼ぶこともあります。低温で長時間発酵させ、りことによって旨味が増したり、発酵時間をコントロールできたりするなど様々なメリットがありますが、低温長時間発酵のパン作りをより深く理解することによって、その恩恵を最大限に引き出すことが可能です。
今回は、低温長時間発酵のパン作りをすることのメリットに加え、なぜ低温長時間発酵のパンは美味しいのか?そのメカニズムとはどのようなものなのか?低温長時間発酵の恩恵を最大限引き出すための方法を詳しく解説していきたいと思います。
低温長時間発酵の最大メリットとは、「小麦の旨味を最大限に引き出す」こと
低温長時間発酵のメリットは様々あります。1つめのメリットは、前日夕方〜夜に生地を仕込んでオーバーナイトさせることによって、翌日の朝からすぐ焼成できることです。2つめのメリットは、発酵をコントロールできることです。焼成のタイミングを遅らせたい場合に、生地を一度冷蔵庫に入れることによって酵母の活性を抑え発酵の進行を遅らせることができます。しかし、これらのメリットは副次的なものと私は考えています。
低温長時間発酵の最大のメリットとは、「小麦の旨味を最大限に引き出せる」ことです。例えば、短時間で発酵させたバゲットと低温長時間発酵させたバゲットの風味や味は全く異なります。また、香りやクラストの甘み、クラムの質感も大きく異なります。私がパン作りにおいて「低温長時間発酵」を取り入れているのは、「美味しさの追求」をした結果、この製法に辿り着いたといっても過言ではありません。
なぜ低温長時間発酵は小麦の旨味を最大限に引き出せるのか?
それでは、なぜ低温長時間発酵のパン作りは小麦の旨味を最大限に引き出せるのでしょうか?その甘みや旨味のカギとなるのが、アミノ酸と麦芽糖です。このアミノ酸と麦芽糖が焼成時で結合し(メイラード反応)分解することによって甘く香ばしい香りや旨味が出ると言われています。微量イーストで低温長時間発酵することで、アミノ酸の生成や麦芽糖の消費を抑えることで小麦本来の香りや旨味を引き出すことができるのです。
微量イースト&低温長時間発酵で味の濃いバゲットに
粉量100%に対して、0.025%~0.1%程度の微量イーストと、発酵温度17℃で約18時間ほど一次発酵させたバゲットは、クラストが飴色で香りも甘く、味の濃いバゲットに仕上がります。甘みと旨みの理由は先ほど述べた、小麦に含まれる麦芽糖がイーストに分解されずに焼き残るからです。
また、低ミキシングで不揃いなグルテンの生地を低温長時間発酵させることで、気泡膜は厚くなり蜂の巣状になります。クラムがクリーム色なのは、小麦粉中のカロテンが焼き残るためと言われています。また、ひきのある強い噛みごたえのあるクラムに仕上げることで味わい深さにつなげていくことができます。
微量イースト&低温長時間発酵は誰でもできる
ここまで読み進めて「微量イースト&低温長時間発酵」は上級者向けなのではないか?と思った方も多いかもしれませんが、そんなことはありません。計量・ミキシング時にイースト量を少なくすること、一次発酵を低温状態を保つことができれば、あとは通常のパン作りの何ら変わることはありません。つまり、微量イースト&低温長時間発酵のパン作りは誰でもできるのです。
低温長時間発酵のパン作りには「冷温庫」が必須
低温の温度管理は冷温庫を使えば可能になります。冷温庫は4℃~40℃くらいまで1℃単位で調整が可能です。中は2段に仕切られているので、直径22cmくらいのボウルが2つ入りますので、低温長時間発酵するには必需品と言い切れるくらい重要な道具になります。また、低温長時間発酵の他にも山食パンの最終発酵にも便利です。私は山食の最終発酵も極力温度を上げないように(27℃で3時間発酵)していますので、私のパン作りはこの冷温庫がないと成り立ちません。価格も1万円程度なので、本格的に家でパン作りを行いたい方にとって、この温冷庫を使うことによって焼き上がりのパンのクオリティが格段に上がるのであれば、投資額としてはむしろ安いのではないかと思います。
いかがでしたでしょうか?微量イースト&低温長時間発酵のパン作りは、パン作りのクオリティを一段上げてくれると同時に、甘く香ばしく旨みの濃いパンを味わう楽しみももたらしてくれます。ぜひご自身で試してみてください!
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